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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)13387号 判決 1998年3月26日

原告

蔦原伊佐雄

被告

長尾宏幸

ほか二名

主文

一  被告長尾宏幸及び同石井商運有限会社は、原告に対し、連帯して金一八六〇万九九九三円及びこれに対する平成五年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三井海上火災保険株式会社は、原告の被告長尾宏幸及び同石井商運有限会社に対する本判決が確定したときは、原告に対し、金一八六〇万九九九三円及びこれに対する平成五年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の、その余を被告らの各負担とする。

五  この判決は、第一及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告長尾宏幸及び同石井商運有限会社は、原告に対し、連帯して、金二億六〇七一万三一四三円及びこれに対する平成五年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三井海上火災保険株式会社は、原告の被告長尾宏幸及び同石井商運有限会社に対する判決が確定したときは、原告に対し、金二億六〇七一万三一四三円及び平成五年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、後退中の普通貨物自動車に衝突されて、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令第二条別表の後遺障害別等級表一級三号(以下、級と号のみ示す。)に該当する後遺障害を負った事故につき、右自動車を運転していた被告長尾宏幸(以下「被告長尾」という。)に対しては民法七〇九条、右自動車の所有者である被告石井商運有限会社(以下「被告石井商運」という。)に対しては自賠法三条に基づき、損害賠償の内金を請求するとともに、右自動車につき被告石井商運との間で自家用自動車保険普通保険契約を締結していた被告三井海上火災保険株式会社(以下「被告三井海上」という。)に対しては同契約に基づき、直接、右損害賠償の内金を請求している事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 平成五年一一月五日午後四時八分ころ

(二) 場所 東大阪市衣摺六丁目一―三四所在のツタハラ鋼業株式会社(以下「ツタハラ鋼業」という。)の工場(以下「本件工場」という。)内

(三) 加害車両 被告長尾運転、被告石井商運所有の事業用普通貨物自動車(大阪一三か七五四六、最大積載量三五〇〇キログラム、長さ六・八五メートル、幅二・一メートル、高さ二・五七メートル、以下「被告車」という。)(乙二、弁論の全趣旨)

(四) 事故態様 本件工場に後退して進入してきた被告車が、前屈みになっていた原告に衝突し、原告は、概ね別紙図面1(以下「図面1」という。)のような状態で被告車後部とゲージ円柱支柱等との間に挟まれた(検甲二の<10>、乙四、原告本人、弁論の全趣旨)。

2  原告(昭和五年八月八日生・本件事故当時六三歳)は、本件事故により、第一二胸椎脱臼骨折、胸髄損傷、第六頸椎椎弓骨折、頸髄不全損傷等の傷害を負い、次のとおり入院して治療を受けた(甲二の2、乙八、九、一五、弁論の全趣旨)。

(一) 平成五年一一月五日から同年一一月一六日まで大阪赤十字病院入院(入院日数一二日)(乙八、弁論の全趣旨)

(二) 同月一六日から平成六年五月二五日まで兵庫医科大学病院入院(入院日数一九一日)(甲二の2、乙九)

(三) 同月二六日から平成七年二月二二日まで星ヶ丘厚生年金病院入院(入院日数二七三日)(乙一五)

3  原告は、平成七年二月二二日、星ヶ丘厚生年金病院の医師により、両上肢不全麻痺、両下肢完全麻痺の後遺障害(一級三号に該当)を残して症状固定と診断された(甲二の<1>、弁論の全趣旨)。

4  本件事故当時、被告三井海上は、被告石井商運との間で、被告車につき、自家用自動車保険普通保険契約を締結していた。

二  争点

1  事故態様

(原告の主張)

本件事故は、原告が、ゲージ円柱支柱付近に落ちていたワイヤーロープ等を片づけていた際、被告長尾が突然、後方確認もせずに被告車を後退させてきたために生じたものである。なお、原告は、被告車の後退を誘導していなかったし、本件工場内の機械が作動していたため、被告車の警笛音が聞こえなかった。

(被告らの主張)

本件事故は、被告長尾が、原告の誘導を受けて最徐行で被告車を後退させていたところ、原告が被告長尾に何らの合図もすることなく、被告車の後退進路上にあったワイヤーロープ等を片づけようとしたために生じたものである。

したがって、本件事故は、原告の誘導に従って被告車を後退させた被告長尾と、その誘導員である原告との衝突事故であり、原告にも重大な過失があるというべきである。

そして、本件事故現場は、進入路が狭い上、暗くて見通しも悪く、雑多な設備や物品等が置かれていたため、後退の誘導がなければ事故が発生するおそれのある危険な場所であったから、原告が何らの合図もしない限り、被告長尾が従前の原告の指示を受けて後退を続けるのは当然であったこと、原告は、本件事故当時、ツタハラ鋼業の代表取締役であり、本件工場の最高責任者であったから、本件事故現場の危険性について責任を負う立場にあること、原告は、被告車を本件工場内に誘導する役割を担っていたのであるから、被告車を誘導するに際し、被告車の後退進路上に落ちていたワイヤーロープ等を前もって片づけておくべきであったこと、後退時、被告車は大きな警笛音が鳴るから、原告は、間近に接近してくる被告車の存在を十分知ることができたこと等の事情を考慮すれば、原告の過失は被告長尾の過失をはるかに上回るというべきである。

したがって、原告の損害を算定するにあたっては、少なくとも九〇パーセントを下回らない過失相殺をなすべきである。

2  損害

(原告の主張)

(一) 治療関係費

(1) 医療費(二〇七二万三一七一円)

(2) 特別室(個室)使用料差額分(七八七万円)

原告は、二四時間痛みを訴え、終日付添いが必要な状態であったから、他の患者への気遣いや付添者への配慮等から特別室を利用する必要があった。

そして、原告は、<1>平成五年一一月一五日から同年一二月六日まで(二二日間)は、一日あたり差額一万円(合計二二万円)の特別室使用料を負担し、また、<2>平成五年一二月七日から平成六年五月二五日まで(一七〇日間)は、一日あたり差額四万五〇〇〇円(合計七六五万円)の特別室使用料を負担した。

なお、一日あたり差額四万五〇〇〇円の特別室は、病院の指定により人室したものである。

(二) 入院雑費(六〇万九七〇〇円)

原告は、本件事故により四六九日間入院したところ、入院雑費は一日あたり一三〇〇円が相当である。

一三〇〇円×四六九日=六〇万九七〇〇円

(三) 近親者付添看護費

(1) 入院付添費(四二二万一〇〇〇円)

原告は、胸部から下が完全麻痺状態であり、入院中の四六九日間、近親者二人の付添いが必要であった。そして、近親者付添看護費は一日あたり一人四五〇〇円が相当である。

四五〇〇円×二×四六九日=四二二万一〇〇〇円

(2) 通院付添費(二三万四〇〇〇円)

原告は、平成七年二月二三日から同年七月一日まで星ヶ丘厚生年金病院に合計二六日通院し、近親者二人の通院付添いが必要であった。そして、近親者付添看護費は一日あたり一人四五〇〇円が相当である。

四五〇〇円×二×二六日=二三万四〇〇〇円

(3) 自宅看護付添費(三九万一五〇〇円)

原告は、平成七年七月二日から同年一〇月三一日まで自宅で療養したが、そのうち八七日間、近親者一人の付添いが必要であった。そして、近親者付添看護費は一日あたり一人四五〇〇円が相当である。

四五〇〇円×八七日=三九万一五〇〇円

(四) 職業付添人費用

(1) 入院中の職業付添人費用(二一四万五三七九円)

原告は、入院中の平成五年一二月二一日から平成六年六月三〇日までの間のうち合計一七五日間、職業付添人の付添いが必要であり、その費用として合計二一四万五三七九円を支出した。

(2) 自宅療養中の職業付添人費用(三二万七八五〇円)

原告は、自宅で療養していた平成七年七月二日から同年一〇月三一日までの間のうち合計三四日間、職業付添人の付添いが必要であり、その費用として合計三二万七八五〇円を支出した。

(五) 将来の付添看護費用(一八九四万七八八〇円)

原告は、死亡するまで約一六年間、近親者一人の付添いが必要であるところ、将来の近親者付添看護費は、一日あたり四五〇〇円が相当である。

四五〇〇円×三六五日×一一・五三六=一八九四万七八八〇円

(六) 交通費

(1) 近親者付添人の通院交通費(二二万五三九五円)

原告が兵庫医科大学病院に入院中、原告には近親者付添人が付き添う必要があったが、当初近親者は二四時間息をつく隙もなく付き添っていたため、別の近親者と交代する必要があった。そして、近親者が兵庫医科大学に通院した際に要した交通費は合計二二万五三九五円であった。

(2) 原告の通院交通費(三二万六〇四〇円)

原告は、星ヶ丘厚生年金病院に合計二六日通院したが、その際の交通費は合計三二万六〇四〇円であった。

六二七〇円(片道料金)×二×二六日=三二万六〇四〇円

(七) 家屋改造費(一二二二万九〇六六円)

原告は、本件事故により半身不随となり、車椅子でしか移動できない状態となったから、家屋の一部屋を原告専用の寝室、風呂、トイレ及びベランダ等に改造する必要があり、その費用として一二二二万九〇六六円を支出した。

(八) 器具購入費(一一八万九二四二円)

原告は、車椅子、昇降機、可動式のベッド、簡易トイレ等が必要となり、これらの器具を購入するため、一一八万九二四二円を支出した。

(九) 休業損害(二七七五万四五二〇円)

原告は、本件事故当時、ツタハラ鋼業の代表取締役であり、当時の年収は二一六〇万円であった。

なお、ツタハラ鋼業は原告が創業したいわゆる同族会社であり、本件事故当時の従業員は原告を含めて一一名しかいなかったため、原告は、ツタハラ鋼業の意思決定及びその実施に携わっていただけでなく、営業社員として、ほとんどの仕事の受注活動をしていたほか、現場従業員として各種工作機械の操作等を行っており、右収入は全て労働の対価分であって利益配当分は含まれていない。

したがって、原告の休業損害は次のとおりとなる。

二一六〇万円×四六九日÷三六五=二七七五万四五二〇円

(一〇) 後遺障害逸失利益(一億四二三二万二四〇〇円)

原告は、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失したところ、就労可能年数はあと八年であった。したがって、新ホフマン方式により中間利息を控除して後遺障害逸失利益を算定すると、次のとおりとなる。

二一六〇万円×六・五八九=一億四二三二万二四〇〇円

(一一) 入通院慰謝料(三二七万円)

(一二) 後遺障害慰謝料(二四〇〇万円)

(一三) 弁護士費用(一五〇〇万円)

(一四) 損益相殺(七八七万三九三九円)

(一五) まとめ

よって、原告は、被告長尾に対しては民法七〇九条、被告石井商運に対しては自賠法三条に基づき、それぞれ右損害合計額二億八一七八万七一四三円から損益相殺額七八七万三九三九円を控除した二億七三九一万三二〇四円の内金である二億六〇七一万三一四三円及びこれに対する不法行為の日である平成五年一一月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告三井海上に対しては自家用自動車保険普通保険契約に基づき、直接、右損害賠償の内金及び遅延損害金の支払を求める。

(被告らの主張)

(一) 治療関係費について

(1) 医療費は認める。

(2) 特別室(個室)使用料差額分は争う。原告は、兵庫医科大学病院入院中、全期間にわたって特別室を使用しているが、その必要性には疑問がある。また、当初は室料差額が日額一万円、その後は室料差額が日額四万五〇〇〇円の高額な特別室を使用しているが、このような高額な特別室使用料差額分は、本件事故との相当因果関係を逸脱したものである。

(二) 入院雑費について

入院が長期化していることを考慮し、低額化すべきである。

(三) 近親者付添看護費について

(1) 原告が入院した病院(大阪赤十字病院、兵庫医科大学病院、星ケ丘厚生年金病院)は、いずれも完全看護体制の病院であるから、近親者が付添看護する必要性は認められない。

しかも、被告らは、原告らの強い要求により、平成五年一二月八日から平成六年九月二七日まで、日額約一万五〇〇〇円の職業付添人費用を支払ってきたから、これと重複して近親者付添看護費を認める必要はない。

(2) 近親者の通院付添費は高額過ぎるので争う。

(3) 近親者の自宅看護付添費は高額過ぎるので争う。原告は星ケ丘厚生年金病院において日常生活動作を独力で行うことができたし、原告宅が大幅に改造され、生活の便宜が向上していること等を考慮すれば、近親者の自宅看護付添費は日額一〇〇〇円が相当である。

(四) 職業付添人費用について

(1) 原告は、平成五年一二月二一日(兵庫医科大学病院入院中)から平成六年六月三〇日(星ケ丘厚生年金病院入院中)までの間、職業付添人を依頼しているが、大阪赤十字病院入院期間中は職業付添人を依頼していないこと、原告と同じような障害者でも職業付添人なしに入院生活を送っている者がいること、兵庫医科大学病院及び星ケ丘厚生年金病院は完全看護体制の病院であること、原告は平成六年二月九日から上肢筋力強化のためのリハビリを行うことができるほど症状が回復していること等に照らすと、職業付添人費用は本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえないというべきである。

もっとも、本件事案の性質を考慮し、被告らは、原告がリハビリを行うまで(平成六年二月八日まで)の職業付添人費用は認める。

(2) 自宅療養中の職業付添人費用は争う。原告は自宅で妻や成人した子供らと同居しており、職業付添人が付き添う必要性は認められない。

(五) 将来の付添看護費用について

争う。原告の症状を考慮すると日額四五〇〇円は高額過ぎる。

(六) 交通費について

不知。ただし、近親者の交通費は損害として認められない。

(七) 家屋改造費について

(1) 原告は、家屋改造に関し、既存建物の一部を改築するとともに、新たに一部を増築している。しかし、増築によって建物の価値が増加すること、床面積増加による居住上の利益は居住者全員が享受すること等を考慮すると、増築部分中の建物躯体部分(設備を除いた建物本体部分)に関する費用(四八二万一六九六円)は、本件事故と相当因果関係がないというべきである。

(2) 原告は、テラスデッキの工事費用(六二万二一二〇円)を請求するが、テラスデッキは、原告の日常生活に必須のものでない上、テラスデッキの新設により建物全体の総体的な価値が増加し、使用上の利益も原告だけではなく居住者全員が享受するから、建物躯体部分と同じく、右工事費用は、本件事故と相当因果関係がないというべきである。

(3) 原告は、増築部設備費用(三〇四万〇六四二円)を請求するが、増築部設備の内訳をみると、電気工事、TV配線等、一般居住用の設備費用まで含まれており、本件事故と相当因果関係を有するのは、介護用設備である浴室及びトイレの設備費用に限られるというべきである。また、右介護用設備の費用も全額が認められるべきではなく、介護仕様部分の費用に限定されるべきであり、さらに、介護用設備が増設されたことにより、原告以外の居住者がこれを利用したり、あるいは従来の浴室やトイレの利用状況が改善されたはずであるから、さらにその一定割合に限定されるべきである。

(4) 原告は、既存部分改修工事費用(一三〇万七九〇〇円)を請求するが、そのうち、本件事故と相当因果関係を有するのは、障害者向けの改修費用(床をフラットにした費用等)に限られ、これは既存部分改修工事費用の二割程度と認められる。

(5) 天井リフト工事費用(一四七万四五〇〇円)は認める。

(八) 器具購入費について

不知。

(九) 休業損害について

原告が主張する年収額(役員報酬額)は、平成二年度の企業成績をもとに平成三年四月一日に改訂された金額であると解されるところ、これはバブルの絶頂期に近い時期に設定されたものであるから、景気変動による調製をする必要がある。

また、一般に休業損害や逸失利益では所得税を控除しないが、年収が二一六〇万円と高額な場合には、税の控除をしないと実損以上の大きな利益を得ることになり、妥当でない。よって、源泉徴収税(年収二一六〇万円の場合には五二一万八六五六円)や府市民税を控除すべきである。

さらに、原告が主張する年収額には、労働の対価以外の要素(利益配当等)が含まれているから、これらを控除する必要もある。そして、本件事故当時、原告は、主として工員としての作業に従事しており、特殊な能力を発揮していたという事情も認められないこと、ツタハラ鋼業では原告の長男への権限移譲が徐々になされていたこと等の事情を考慮すれば、原告の労働対価部分はそれほど高額とはならない。

以上によれば、原告の休業損害は、原告と同年齢の平均賃金もしくはそれに多少の調整を加算した金額を基礎収入として算定されるべきである。

(一〇) 後遺障害逸失利益について

原告の年齢に照らせば、原告は、仮に本件事故がなくても、早晩、体力や健康の低下によって高額の収入を維持することが困難になっていたはずである。

(一一) 入通院慰謝料について

争う。

(一二) 後遺障害慰謝料について

原告の年齢を考慮すると、二〇〇〇万円程度が相当である。

(一三) 弁護士費用について

争う。

(一四) 損益相殺(合計六三一五万二八七三円)

(1) 被告らは、原告に対し、本件事故の損害のてん補として、合計三八九〇万九一一五円を支払った。

(2) 原告は、本件事故につき、次のとおり、労働者災害補償保険から保険金の支給を受けており、これらは損益相殺の対象となる。

<1> 療養補償給付金額(二〇七二万三一七一円)

<2> 休業補償給付金額(一〇〇万三八〇〇円)

<3> 障害補償年金額(一三二万八六八〇円)

ア 平成八年一二月分、平成九年二月分、同年四月分、同年六月分につき、各一八万八三八三円(一一三万〇三〇〇円を六で除した額。ただし、円未満は切捨て)

イ 平成九年八月分、同年一〇月分、同年一二月分につき、各一九万一七一六円(一一五万〇三〇〇円を六で除した額。ただし、円未満は切捨て)

<4> 介護補償給付金額(一一八万八一〇七円)

第三争点に対する判断

一  争点1(事故態様)について

1(一)  前記争いのない事実等に証拠(甲二〇、検甲二の<1>ないし<15>、三の<1>ないし<3>、乙一ないし四、六の<1>、<2>、被告長尾本人、原告本人、弁論の全趣旨)を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 原告は、本件事故当時、プレス金属加工業等を目的とするツタハラ鋼業の代表取締役であり、本件工場で鋼材の加工作業等に従事していた。

被告石井商運はツタハラ鋼業に鋼材を運搬していた会社であり、被告長尾は被告石井商運の従業員である。

(2) 本件事故は本件工場の出入口内付近で起きたものであり、その場所の概況は、別紙図面2(以下「図面2」という。)のとおりである。

本件工場の出入口は、幅が約四メートル、出入口前に幅員約四・八メートルの道路と幅約二メートルのコンクリート鋪装部分(特に勾配はない。図面2・出入口付近断面図参照)があり、また、出入口内付近には鉄板材等が置かれていたため、被告車のような普通貨物自動車が進入するには、やや狭い感じのする出入口であった。

そして、出入口付近に置かれている鉄板材付近には、鋼材を吊り上げるための天井クレーンが走行しており、鋼材を運搬してきた車両は荷台が右鉄板材付近にくるようにするため後退して進入しなければならなかった。

このため、車両が本件工場に進入する際には、誘導員の指示を受ける必要があった。

また、本件工場の出入口付近には鉄材等様々な物品が置かれていることがあり、車両が本件工場内に進入するには、まず、物品を片付ける必要があった。

(3) 被告長尾は、平成五年一一月五日午後四時ころ、本件工場に搬入する鋼材を乗せた被告車を運転して本件工場に到着し、本件工場にいた原告に到着を告げた。

原告は、本件工場の出入口付近に置かれていた物品を片付けた後、別紙図面3(以下「図面3」という。)の鉄板材の上に乗って「オーライ、オーライ」等と言いながら後退の指示を行っていたところ、被告車の後退進路上であるゲージ円柱支柱付近にワイヤーロープ等が落ちていることに気付き、被告車がまだ本件工場の出入口付近にいたことから、右物品を片付ける余裕があると思い、被告長尾に何の合図もせずに鉄板材の上から降りて右物品を片付けようとした。

被告長尾は、被告車のサイドミラーで原告の姿を確認しつつ、図面3の<2>から<5>のように被告車を後退させようとしたところ、図面3の<3>から<4>付近において、原告の姿が見えなくなったことに気付いたが(被告車が図面3の<3>から<4>付近にいた場合、ワイヤーロープ等を片付けている原告の姿を被告車のサイドミラーで確認することは不可能であった。)、原告は被告車の死角を見てくれているのだろう等と思い、そのまま被告車を後退させた。

その結果、ワイヤーロープ等を片付けるために被告車に背を向けた状態で前屈みになっていた原告は、概ね図面1のような状態で被告車後部とゲージ円柱支柱等との間に挟まれた。

(4) なお、本件工場内には機械作動音が響いており、人の肉声は聞こえにくい状態であったが、後退時に鳴る被告車の警笛音は、誘導者である原告に十分聞こえる大きさであった。

(二)  これに対し、原告は、本件事故は、被告長尾が、原告の誘導の指示も受けずに、突然、後方を確認することなく被告車を後退させてきたために生じたものである等と主張し、これに沿う証拠(甲二〇、二六の<2>、二七、乙三、四、蔦原安子証人、原告本人)もある。

しかしながら、本件工場に車両が進入するには、出入口付近の構造、天井クレーンの走行場所の関係等から、誘導員の指示を受ける必要があったところ(このことは、原告本人も認めている。)、本件事故の場合に限って、被告長尾が誘導なしに本件工場内に進入してくるとは考え難いこと、本件工場の出入口付近の構造、誘導の必要性及び後退時に鳴る被告車の警笛音の大きさからすると、被告車が突然、原告が気付く間もなく後退してきたとは考えられないこと等に照らすと、前掲証拠は、不自然であるといわざるを得ず、直ちに採用することはできない。

なお、本件訴訟前、被告長尾は、当初、本件事故は原告の誘導中に発生したものであると供述していたが、その後、誘導中の事故ではなかったと供述を変えているところ、これは、被告長尾が、被告石井商運の取引先の代表取締役で面識のある原告に有利になると思ってしたことであって(被告長尾本人、弁論の全趣旨)、右供述の変遷には合理的な理由があると認められるから、前記認定を妨げる事情とはならない。

2  以上によれば、本件事故は、被告車の後退を誘導していた原告が、被告長尾に合図もせずに被告車の後退進路上に落ちていた物品を片付けようとしたところ、これに気付かなかった被告長尾が、そのまま被告車を後退させたために生じたものと認められる。

ところで、本件工場の出入口付近には物品が置かれており、車両を本件工場内に進入させる際には右物品を片付ける必要があったから、誘導者が誘導の途中で物品を片付けるために車両の後退進路上の物品を片付けることもあり得えたというべきである。そうすると、被告長尾は、誘導者である原告の姿が見えなくなった際、右のようなことも予見した上で、原告の位置を確認してから被告車を後退させるべきであったのに漫然と被告車を後退させた過失があるというべきである。

したがって、被告長尾は、原告に対し、民法七〇九条に基づく責任を負い、また、被告車の所有者である被告石井商運も、原告に対し、自賠法三条に基づく責任を負う。

3  もっとも、本件事故は、原告が被告長尾に何の合図もすることなく、被告車の後退に妨げとなる物品を片付けようと同車の後退進路上に進出して発生したものであり、原告は、被告車の後退を誘導する前に物品を片付けておくことも可能であったこと、被告長尾に一時停止を指示することも可能であったと推認されること、被告車の警笛音からすれば、被告車が間近に接近してきたことに気付いたはずであり、これとの衝突を回避することも容易であったと推認されること等に照らせば、原告の損害を算定するにあたっては、右に指摘した原告の過失を斟酌し、損害額の六割を減額するのが相当である。

二  争点2(損害)について

1  前記争いのない事実等に証拠(甲二の<1>ないし<10>、一〇、二一、二七、三二、乙八ないし一一、一三ないし一八、蔦原安子証人、原告本人、弁論の全趣旨)を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告(本件事故当時六三歳)は、本件事故後、ただちに救急車で大阪赤十字病院に搬送され、意識は清明であったが興奮状態にあり、胸部以下の知覚麻痺や腹部痛等を訴えて診察を受けたところ、胸髄損傷、第一二胸椎圧迫骨折(脱臼骨折)、頸髄損傷等と診断されて緊急入院となり、平成五年一一月五日から同年一一月一六日まで同病院に入院して治療を受けた。

(二) その後、原告は、同月一六日から兵庫医科大学病院救急部に転院し、第一二胸椎脱臼骨折、第六頸椎椎弓骨折、右第二肋骨骨折、右上腕骨剥離骨折等と診断され、同月三〇日、手術目的で整形外科へ転科し、同年一二月一四日、第五ないし七頸椎椎弓切除術、同後方固定術、第一〇胸椎ないし第二腰推後方固定術の手術を受け、その後、リハビリテーションにより症状の改善を試みたところ、下肢機能については回復の見込みがなく車椅子生活を余儀なくされたが、上肢機能については改善の見込みがあり、上肢筋力訓練、巧緻運動訓練等により、徐々に上肢機能が回復した。

(三) 原告は、日常生活動作をさらに向上させるため、専門的なリハビリテーションを受けることにし、平成六年五月二六日から平成七年二月二二日まで星ヶ丘厚生年金病院に入院したところ、ベッド上での寝返り、起き上がり、車椅子の操作、衣服の着脱を自立して行えるようになったほか、食事も左手でスプーン等を使用すれば可能になったが、排尿、排便、入浴、車椅子への乗り降り等については依然として介護が必要な状態であった。

(四) そして、原告は、平成七年二月二二日、星ヶ丘厚生年金病院の医師により、両上肢不全麻痺、両下肢完全麻痺の後遺障害(一級三号に該当)を残して症状固定と診断され、その後も同病院に通院してリハビリテーションを受けている。

2  以上の事実を前提として、以下、原告の損害額を算定する(原告の主張する損害額は各損害項目下括弧内記載のとおりであり、計算額については円未満を切り捨てる。)。

(一) 治療関係費

(1) 医療費(二〇七二万三一七一円) 二〇七二万三一七一円

本件事故と相当因果関係のある医療費が二〇七二万三一七一円であることは当事者間に争いがない。

(2) 特別室(個室)使用料差額分(七八七万円) 一九一万円

前記認定の兵庫医科大学病院入院中における原告の状態に同病院の医師が原告は個室による管理が必要であると証明していること(甲一)を併せ考慮すれば、原告は、同病院入院中、特別室を使用する必要があったと認めることができる。

もっとも、原告が、一日あたり差額四万五〇〇〇円の特別室を使用しなければならなかった事情は本件全証拠によっても認めることができず、本件事故と相当因果関係のある特別室使用料差額分は、一日あたり一万円を相当と認める。

そして、弁論の全趣旨によれば、原告は、平成五年一一月一六日から平成六年五月二五日まで一九一日間、兵庫医科大学病院の特別室に入院したことが認められるから、特別室使用料差額分は一九一万円となる。

(二) 入院雑費(六〇万九七〇〇円) 六〇万九七〇〇円

前記認定の原告の入院中の状態及び入院期間に照らせば、入院雑費は原告が主張する四六九日分につき、一日あたり一三〇〇円を相当と認める。

一三〇〇円×四六九日=六〇万九七〇〇円

(三) 近親者付添看護費

(1) 入院付添費(四二二万一〇〇〇円) 一三五万円

原告は、本件事故が発生した平成五年一一月五日から星ヶ丘厚生年金病院を退院した平成七年二月二二日まで合計四七五日間入院したことが認められるところ、前記認定の原告の入院中の状態に照らせば、原告は、入院中、付添人による看護が必要であったと認められる。もっとも、原告が入院した各病院は、いわゆる完全看護体制の病院であったこと(弁論の全趣旨)、原告はリハビリテーションにより相当程度症状が回復したこと等を考慮すると、入院付添費は、一人分についてのみ本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

そして、原告には、後記認定の職業付添人が付き添った一七五日間以外は近親者が付き添ったと認められ(弁論の全趣旨)、その近親者付添費は、付添人に生じた交通費を含め、一日あたり四五〇〇円を相当と認める。

四五〇〇円×三〇〇日=一三五万円

(2) 通院付添費(二三万四〇〇〇円) 六万五〇〇〇円

証拠(乙一六、一八、弁論の全趣旨)によれば、原告は、症状固定後、星ヶ丘厚生年金病院に原告の主張するように二六日間は通院したことが認められるところ、前記認定の原告の症状固定時の状態に照らせば、原告の通院には、付添人一人が付き添う必要があったと認められ、その近親者付添費は、一日あたり二五〇〇円を相当と認める。

二五〇〇円×二六日=六万五〇〇〇円

(3) 自宅看護付添費(三九万一五〇〇円) 〇円

原告は、症状固定後の平成七年七月二日から同年一〇月三一日までの自宅療養中における近親者付添看護費を請求するが、これは後記認定のとおり、将来の付添看護費用として算定する。

(四) 職業付添人費用

(1) 入院中の職業付添人費用(二一四万五三七九円) 二一四万五三七九円

証拠(甲九の<1>ないし<40>、弁論の全趣旨)によれば、原告は、平成五年一二月二一日(兵庫医科大学病院入院中)から平成六年六月三〇日(星ヶ丘厚生年金病院入院中)までの間のうち一七五日間、職業付添人を依頼し、その費用として合計二一四万五三七九円を支出したことが認められるところ、前記認定の原告の状態等に照らせば、右費用は、全額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(2) 自宅療養中の職業付添人費用(三二万七八五〇円) 三二万七八五〇円

証拠(甲九の<41>ないし<43>、弁論の全趣旨)によれば、原告は、自宅で療養していた平成七年九月一日から同年一〇月一六日までの間のうち三四日間、職業付添人を依頼し、その費用として合計三二万七八五〇円を支出したことが認められるところ、証拠(甲一五、二七、蔦原安子証人、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告に付添可能な近親者は、原告の妻である蔦原安子(昭和五年六月一五日生)だけであって、同人の年齢、体力等に照らせば、同人だけでは原告の看護を十分に行うことができないことが認められる。

したがって、右職業付添人費用も本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(五) 将来の付添看護費用(一八九四万七八八〇円) 一〇五二万六六〇〇円

前記認定の原告の症状固定時の状態等に照らせば、原告は、症状固定後死亡するまでの間の一六年間(簡易生命表等によれば、原告は、少なくともその主張のとおり、一六年間の余命があるものと推認される。)、近親者一人の付添いが必要と認められる。

もっとも、後記認定のとおり、本件では、介護にかかる自宅改造費用を本件事故と相当因果関係のある損害と認めること等を考慮すると、介護の内容は相当程度軽減されると推認されるから、将来の近親者付添看護費は、一日あたり二五〇〇円を相当と認める。

したがって、新ホフマン方式により中間利息を控除して原告の将来の付添看護費用を算定すると次のとおりとなる。

二五〇〇円×三六五日×一一・五三六=一〇五二万六六〇〇円

(六) 交通費

(1) 近親者付添人の通院交通費(二二万五三九五円) 〇円

原告は、兵庫医科大学病院入院中に近親者付添人に生じた交通費合計二二万五三九五円を損害として請求するが、右費用は近親者入院付添費として既に算定済みである。

(2) 原告の通院交通費(三二万六〇四〇円) 三二万六〇四〇円

証拠(甲八の<1>、<2>、弁論の全趣旨)によれば、原告は、症状固定後、星ヶ丘厚生年金病院に合計二六日タクシーで通院し、片道六二七〇円を要したと認められるところ、前記認定の原告の状態に鑑みれば、右交通費は本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

六二七〇円×二×二六日=三二万六〇四〇円

(七) 家屋改造費(一二二二万九〇六六円) 五〇〇万円

証拠(甲一〇の<1>ないし<12>、一六、一七の<1>ないし<3>、検甲一の<1>ないし<18>、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故により車椅子生活を余儀なくされたことから、原告の主張する前記金額を支出して自宅の寝室を原告専用の寝室、風呂、トイレ及びベランダ等に増改築したことが認められるが、右費用中には、テラスデッキの工事費用等、原告の介護に必ずしも必須とはいえない費用が含まれている上、右改築による利益は原告以外の居住者も享受すること等を総合すると、本件事故と相当因果関係のある家屋改造費は、五〇〇万円を相当と認める。

(八) 器具購入費(一一八万九二四二円) 一一八万九二四二円

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、車椅子、昇降機、可動式ベッド、簡易トイレ等の器具を購入するため、合計一一八万九二四二円を支出したことが認められるところ、前記認定の原告の状態に照らせば、右費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(九) 休業損害(二七七五万四五二〇円) 一九二七万三九七二円

前記認定事実に証拠(甲二〇、乙六の<2>、原告本人、弁論の全趣旨)を総合すれば、原告は、昭和五五年にツタハラ鋼業を設立し、本件事故当時、同社の代表取締役として経営に携わる一方、営業活動及び現場作業等に従事していたところ、本件事故により、労働能力を一〇〇パーセント喪失し、現場作業等に従事できなくなっただけでなく、ツタハラ鋼業の役員も退いたことが認められる。

ところで、原告は、奈良税務署長に対し、本件事故が発生する前の平成四年分の所得金額を二〇七五万二一四一円と申告していたことが認められるが(甲一一の<1>、弁論の全趣旨)、ツタハラ鋼業は、いわゆる同族会社であって、従業員も約一〇名しかいないこと(弁論の全趣旨)、原告が右給料の外に利益配当分の金員を取得した形跡が窺われないこと(弁論の全趣旨)、原告の右給料は、いわゆるバブル時代の絶頂期に近い平成二年度の企業成績をもとに算定された金額であると推認されるところ(弁論の全趣旨)、証拠(甲一八の<1>ないし<5>、弁論の全趣旨)によれば、ツタハラ鋼業は、平成三年度以降、次第に業績が悪化していると認められるのに(ツタハラ鋼業の売上高は、平成三年度が三億四六二四万六三五四円、平成四年度が二億八一二三万二三〇一円、平成五年度が二億〇七三〇万一二六一円、平成六年度が一億七二九五万八九一八円と推移している。)、本件事故当時の原告の給料は減少していないこと等の事情を考慮すれば、前記申告額をそのまま採用して原告の逸失利益を算定することは相当でないというべきである。

そこで、右に認定した事情を総合考慮し、原告の基礎収入は、前記申告額の約七割である一五〇〇万円をもって相当と認める。

そして、原告は四六九日分について休業損害を求めるから、原告の休業損害は次のとおりとなる。

一五〇〇万円÷三六五×四六九日=一九二七万三九七二円

なお、被告らは、年収が高額な場合には源泉徴収税等を控除すべきであると主張するが、損害賠償金に対して課税するかどうかは国等の納税権者と被害者との関係として立法政策によって決せられる事柄であり、損害賠償金が非課税とされたことによる利益を被害者が享受する結果となっても、それは加害者の損害の賠償額とは無関係な事柄であるから、損害賠償額の算定にあたっては税額を控除すべきでないと解するのが相当である。よって、被告らの主張は採用できない。

(一〇) 後遺障害逸失利益(一億四二三二万二四〇〇円) 九八八三万五〇〇〇円

原告は、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失したところ、症状固定時の年齢等からみて、就労可能年数は、その主張のとおり八年と認めるのが相当であり、前記の基礎収入を前提として新ホフマン方式により中間利息を控除して原告の後遺障害逸失利益を算定すると、次のとおりとなる。

一五〇〇万円×六・五八九=九八八三万五〇〇〇円

(一一) 入通院慰謝料(三二七万円) 三二七万円

前記認定の原告の傷害の内容、程度、入通院状況等を総合考慮すれば、入通院慰謝料は原告主張のとおり認めるのが相当である。

(一二) 後遺障害慰謝料(二四〇〇万円) 二四〇〇万円

前記認定の原告の後遺障害の内容、程度、その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すれば、後遺障害慰謝料は原告主張のとおり認めるのが相当である。

(一三) 過失相殺

以上によれば、原告の損害は、合計一億八九五五万一九五四円(内訳・<1>積極損害〔(一)から(八)の損害〕合計四四一七万二九八二円、<2>消極損害〔(九)、(一〇)の損害〕合計一億一八一〇万八九七二円、<3>慰謝料〔(一一)、(一二)の損害〕合計二七二七万円)となり、前記一の2で説示したとおり過失相殺により六割を控除すると、七五八二万〇七八一円(内訳・<1>積極損害一七六六万九一九二円、<2>消極損害四七二四万三五八八円、<3>慰謝料一〇九〇万八〇〇〇円)となる。

(一四) 損益相殺

(1) 証拠(甲二九、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故につき、次のとおり、労働者災害補償保険から次のとおり保険金の支給を受けたことが認められる。

<1> 療養補償給付金額(二〇七二万三一七一円)

<2> 休業補償給付金額(一〇〇万三八〇〇円)

<3> 障害補償年金額(一三二万八六八〇円)

ア 平成八年一二月分、平成九年二月分、同年四月分、同年六月分につき、各一八万八三八三円(一一三万〇三〇〇円を六で除した額。ただし、円未満は切捨て)

イ 平成九年八月分、同年一〇月分、同年一二月分につき、各一九万一七一六円(一一五万〇三〇〇円を六で除した額。ただし、円未満は切捨て)

<4> 介護補償給付金額(一一八万八一〇七円)

ところで、療養補償給付の範囲には診察料の他看護費用、交通費等が含まれているから(労働者災害補償保険法一三条参照)、右の療養補償給付金額二〇七二万三一七一円は、前記認定の治療関係費、近親者付添看護費、職業付添人費用、将来の付添看護費用、交通費にてん補されるものであり、また、看護費用に代わる性質を有する家屋改造費及び器具購入費にもてん補されるというべきである。さらに、入院雑費は、労働者災害補償保険が本来給付を予想していない費目であるが、その性質が極めて治療費に近いものであることを考慮すると、やはりてん補の対象になると解すべきである。

したがって、原告の積極損害一七六六万九一九二円は、全ててん補済みとなる。

そして、休業補償給付金額一〇〇万三八〇〇円と障害補償年金額一三二万八六八〇円は、原告の消極損害にてん補されるから、原告の消極損害は、四四九一万一一〇八円となる。

なお、てん補されなかった療養補償給付金額の残額及び介護補償給付金額は、原告の消極損害及び慰謝料にてん補されない(労働者災害補償保険法一二条の四参照)。

(2) そして、証拠(乙一九ないし二二の<1>、<2>、弁論の全趣旨)によれば、被告らは、原告に対し、本件事故の損害のてん補として合計三八九〇万九一一五円を支払ったことが認められるから、結局、原告の損害は、右消極損害と慰謝料の合計五五八一万九一〇八円から右金額を控除した一六九〇万九九九三円となる。

(一五) 弁護士費用(一五〇〇万円) 一七〇万円

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、弁護士費用は一七〇万円を相当と認める。

三  結語

以上によれば、原告の被告長尾及び同石井商運に対する請求は、一八六〇万九九九三円及びこれに対する平成五年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、被告三井海上に対する請求は、被告長尾及び同石井商運に対する本判決確定を条件として、一八六〇万九九九三円及びこれに対する平成五年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 松本信弘 石原寿記 村主隆行)

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